最高裁判所第二小法廷 昭和40年(オ)1016号 判決 1967年6月30日
主文
原判決中被上告人大黒屋株式会社以外の被上告人らに対する請求に関する部分を破棄する。
右部分について、本件を東京高等裁判所に差し戻す。
被上告人大黒屋株式会社に対する上告を棄却する。
前項の部分に関する上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人木村篤太郎、同広瀬功の上告理由第一、五点について。
(い) 本件建物は、もと、上告人の所有に属したこと。
(ろ) 被上告会社は、上告人との間で本件建物について代物弁済の予約を締結し、昭和二九年七月六日、右予約に基づく完結権を行使する旨の意思表示をしたこと。
(は) 被上告会社は、同年七月一五日、右意思表示を撤回する旨の意思表示をしたこと。
(に) 被上告会社は、同三一年一一月九日、本件建物について自己名義の所有権移転登記を経由し、その後本件建物を被上告人木村みすに売り渡したこと。
(ほ) 同被上告人は、本件建物の居住者である被上告人らに対しそれぞれその一部を賃貸したこと。
原審は以上のような事実を確定している。
ところで、登記は物権変動の対抗要件にすぎないから、無権利者が登記したからといつて当該権利を取得するいわれはなく、無権利者から当該不動産を譲り受けまたはこれについて権利の設定を受け、その旨の登記を経由した者があつても、真正の所有者はその者に対し自己の所有権を主張することができるものと解すべきことは当然である。
そして、前記のような事実関係のもとでは、被上告会社は、前記所有権移転登記を経由した当時、他になんらかの所有権取得事由の存しない限り本件建物について所有権を有していなかつたものであり、したがつて、被上告会社からその売渡を受けた被上告人木村みすも、これについてなんらの権利を取得しないものといわねばならない。
されば、被上告会社はもとより、その他の被上告人らは、いずれも、上告人の本件建物に対する所有権について登記の欠缺を主張する正当の利益を有する第三者にあたらないものと認めるべきであるから、これと異なつた見解に立つ原判決は民法一七七条の解釈を誤つたものというべく、この違法が原判決中被上告会社以外の被上告人らに対する請求を棄却した部分に影響を及ぼすことは明らかであるから、この点の論旨は理由があり、原判決中右部分は破棄を免れない。
同第二点について。
所論は、ひつきよう、原審で主張判断のない事実を前提として原判決を攻撃するに帰するから、採用できない。
同第三点について。
所論引用の原判示は、旧利息制限法五条の法意に照らし、正当である。したがつて、原判決に所論の違法はなく、所論は、ひつきよう、右と異なつた見解に立つて原判決を攻撃するに帰するから、採用できない。
同第四点について。
本件損害金の約定が有効である旨の原審の判断は、正当である。したがつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は理由がない。
よつて、被上告会社に対する上告は民訴法三九六条、三八四条に従い、これを棄却し、その部分に関する上告費用の負担につき同法九五条、八九条を適用し、その余の被上告人らに対する上告については、同法四〇七条一項により原判決を破棄し、本件を原審に差し戻すべきものとし、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 城戸芳彦 裁判官 奥野健一 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 石田和外 裁判官 色川幸太郎)